雑記帳

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コンビニ人間(著:村田 沙耶香)

      2018/06/10

※ご注意
このページはネタばれを含む可能性があります。ご了承の上、ご覧ください。

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第155回芥川賞受賞作

36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、
清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、
毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいとつきつけられるが……。
「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作。
(帯より引用。)

あらすじ

基本的には帯より引用した上記の通りなのですが、ただ単にコンビニバイトを続けているフリーターのように見えるので少し補足したいと思います。

主人公、古倉恵子は「普通」ではない。
幼稚園のころ、鳥が死んでいれば、その死骸を母親の元へ持っていき食べようと言い、小学校の時に男子同士がけんかをしている際に「誰か止めて」という言葉に対して、スコップで男子生徒を殴って止めた。
鳥のケースでは、父親が焼き鳥が好きで、主人公とその妹は唐揚げが好きだったから死んだ鳥を調理しようと考えた。
母親は死んじゃって悲しいね、かわいそうだねと言うがそれが理解できなかった。
小学校のケースでは、けんかを止めるのにもっとも確実な方法をとった。
このように「普通」ではなく、それでもそのような行動が家族を悲しませるのは本意ではないため、自ら動くのをやめ、「治らなくては」と思いながら大人になっていった。
そうこうして、大学1年のときにオープンするというコンビニのアルバイトに応募し、採用された。
以後18年間同じコンビニでバイトをしている。

「普通」ではない、古倉にとって、マニュアルの通りに動くことで「店員」となり、世界の歯車として機能できるコンビニは正常な人間になれる場所だった。
とはいえ、36歳、周囲は干渉してくる。
バイトを始めたときに喜んでくれた家族もこのままなのかと心配をし、同学年の友人らからは、結婚はしないのか、なぜコンビニバイトなのかと聞いてくる。

そして、白羽の登場。
白羽もまた「普通」から外れてることで「普通」に干渉される人間。
古倉とはタイプが違い、なんと言うか、、、とても残念な感じです。
白羽は35歳の男性。
彼も結婚してないことで干渉されていた。(それだけではないですが。)
結婚をしていないことが干渉される要素のひとつであればと、古倉は白羽に同棲の提案をし、同棲する。(正確には婚姻の提案、しかも白羽が泊まるところもなかったのですが。)

これに対し、周囲は激変した。
妹は喜び(両親には未報告)、友人らもおめでとうと言い、憶測の恋愛アドバイスをしてくれる。
そして、白羽の提案で就職をするために、コンビニのバイトを辞める。
辞めてから、コンビニのために生活していた古倉は、生活の基準を失い、昼夜問わず眠り、お腹が空いたら食事を摂る、そんな生活になっていた。
就職面接の日、トイレを借りようと入ったコンビニで「コンビニの声」を聞き、古倉は自分は「コンビニ店員という動物」なのだと自覚し、就職面接を断り、白羽と別れ、新しい店を探す。

感想・所感

村田沙耶香さんの作品は「授乳」「殺人出産」と読み、実はあまり合わないと感じた作家さんでした。
今回、コンビニ人間を読んでみたのは、芥川賞受賞の特集で今まで違うというのを耳にしたためです。
読んでみてですが、、、残念ながら合わないと感じました。
これは嫌いとかそういうのではなく、波長というか、反りというか、根本の考え方が合わないのだと思います。
村田さんの作品は(本作含め3作品ですが)「普通」ではない世界や人物を描いてるのですが、どうにも「普通」が誇張されているように感じてしまい、「普通」ではないものを描いているのに、「普通」と「1種類の普通ではない」の2種類しか存在していないような世界がどうにも。
発想はおもしろいのですが、その辺が読んで想像する際にリアリティ欠けてしまうなと思うのです。

いくつか、感じたことなどを書きたいと思います。
思いついたままに書きますので、読みにくいところあるかと思いますが、ご容赦ください。

自分の意思のない古倉

古倉は白羽に婚姻の提案をした際に「いろんなことがどうでもいい」「自分の意思がない」ということを言ってます。
が、実は古倉は「普通」の人よりもずっといろんなことに対してどうでもいいと思えないのではないかと感じてます。
古倉の小さい頃のエピソード。
「普通」は鳥が死んでたらかわいそうと悲しがり、けんかを止める場合に負傷させて止めるのはダメだと教えられ、そういうものとして対応する。
でも古倉はなぜそうなのかがわからないため、それに準じた対応ができない。
理由がわからないと受け入れられないのは、「どうでもいい」と思えないからなのではないかと思いました。
また、家族を悲しませるのは本意ではないというのは、古倉の意思。
とはいえ、家族を悲しませないために、理由がわからないものを飲み込んで対応をすることはできないというのも古倉のこだわりなのではないかなと。

マニュアル店員

本作、コンビニのバイトは完璧なマニュアルがあり、それに従うことで店員になれることが描かれてますし、宣伝などもそのような印象を持つような形になってます。
ですが、本の出だしの段階で古倉はただのマニュアル店員ではないことが描かれてます。
客の動向を気遣い、それにあわせた行動をする。
厳密にマニュアル化しようとすればできますが、それを言ってしまうとたいていのことはマニュアル化できると思います。
それこそ、人付き合いですら。
古倉の行動は、18年間バイトをして培われた経験から出てくるもので、古倉はただのマニュアル通りに動く「コンビニバイト」ではなく、「コンビニ店員という動物」というのを匂わせてると思いました。

店長

店長が「店長」と書かれてるのが印象的でした。
おそらく名前は出てないのではないかと思います。
古倉にとって、店長は店長で、個人としての認識はしていないのかと。
これは店長は1人しかいないため、役職で認識するので十分であり、バイトやパートは複数人いるため、個人での認識が必要ということなのかなと思いました。
実際の会社でも社員間では個人の認識をし、部長、課長は役職での認識になりやすいと思います。
仕事での人に対する認識なんてそんなものなのかもしれませんね。

店長と泉さんの変化

古倉が白羽と同棲していることが発覚した後の店長と泉さんが変わりすぎに感じました。
普段から仕事に真面目で、不真面目な人を注意してきた人が浮いた話ひとつで、勤務時間内で動くべき状況でゴシップネタにキャッキャ言うものでしょうか。
白羽さんの言うように、今まで不気味すぎた「あちら側」の人が「こちら側」に来たということから干渉しやすくなったのは確かだと思いますが、それでもあそこまでの変化はちょっと想像しにくく。
時間外のバックヤードで根掘り葉掘り聞かれるとかなら、想像しやすかったのですけどね。
推測ですが、一丸となっていたはずのコンビニの世界が壊れたことを顕著にしたかったのかなと。

白羽

なんとも残念極まりない人でしたが、なんというか、人間らしいなとも思いました。
身勝手で、自分が受けたことに対しては被害者となり、人には何の気にも留めず同じことをする。
そして、この世界では生きにくい思考の持ち主ですね。
自分はこうなんだというのがあるが故に干渉されるのに、ムラから排除されたくないと、干渉されることに耐える。
ムラが合わないのであれば、出て行って生きるという選択ができない人。

男性の描き方

コンビニ人間に限らないのですが、村田さんの作品の男性は男尊女卑が激しかったり、何かと残念な人が多い気がします。
白羽しかり、友人の旦那しかり。
女は結婚があるから楽とか、子どもを産まないと意味がないなど、村田さん自身の人生で何かあったのかと思ってしまうほどに男性の印象が悪いです。
バイト先の同じ時間帯は女性で前向きで良い印象に描かれてたり、その温度差に違和感を覚えます。

「普通」

この作品での大きなテーマですね。
小さい頃のエピソードはすごく良いと感じました。
「普通」とは「なぜ?」「どうして?」をそういうものとして飲み込んでるだけと見えました。
古倉に説明ができない大人もまた同様。
そして、それを飲み込めない古倉は「普通」ではなかった。
白羽も「普通」はどういうものかを知りながらも、飲み込めず「普通」ではなかった。

私は「普通」とは何かと問われれば、大半の人がそのように認識していることと思ってます。
正しいか否かではなく、理由も何もなく、ただ多くの人がそうだということが「普通」なのだと思います。
そしてそれは今も昔もこれからも、変化していくものなのではないかと。
白羽の語った、男は狩りをし、女は子どもを産む。
これは、生物の種の保存という点でそう簡単に変わらないもの。
ですが、人は思考し、知恵を持っています。
いつか何か大きな革新が起きたらそれすらひっくり返るかもしれませんね。
先の根底には種の保存というのがありますから。
それこそ試験管ベビーという形で作られ、人工的に成長させられるようになったりしたら。。。

まとめ

今までの作品に対し変わったということ、芥川賞受賞ということもあり、期待したのですが、私には合わず。
ですが、「普通」という大きなテーマに対しての考え方など興味深いところも多々ありました。
読後感で言うと、良くも悪くもなくという感じでした。
最後で古倉は「コンビニ店員という動物」といて新しい店を探すのですが、どうも最初から古倉は「コンビニ店員という動物」でコンビニを軸にすべてが成り立っているので、当然の帰結になったかなと思いました。
読んでいて周囲の人間に不快感を覚えることは多々ありましたが(苦笑)

人におすすめするかどうかというと、私なら相手を選びます。
おそらく読んだ人によっては今までの「普通」や「当たり前」という概念を揺らがせる可能性があるかなと感じたので。
何も考えずに「普通」を「普通」としていける方が幸せなこともあると私は思います。

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